大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和43年(ネ)380号 判決

控訴人・附帯被控訴人

笠鉄運送株式会社

ほか一名

被控訴人・附帯控訴人

稲垣康子

ほか二名

被控訴人

稲垣治郎

ほか一名

主文

本件控訴および本件附帯控訴による拡張請求部分をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とし、附帯控訴費用は附帯控訴人らの負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という。)ら代理人は原判決中控訴人ら勝訴の部分を除き、その余を取消す。被控訴人(康子、和美、千恵美はいずれも附帯控訴人、以下単に被控訴人という)らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに附帯控訴による拡張部分につき請求棄却の判決を求めた。

被控訴人ら代理人は本件控訴につき「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」旨の判決を求め、附帯控訴として「原判決中被控訴人康子同和美同千恵美に関する部分を以下のとおり変更する。控訴人らは各自、被控訴人康子に対し金三二一万〇、六四〇円、同和美同千恵美に対しそれぞれ金二七一万〇、六四〇円および右各金額に対する昭和四一年八月三一日から右各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。」旨の判決並びに仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出、援用および書証の認否は、左に記載するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(被控訴人ら代理人の陳述)

一、当審での請求拡張について。

(一)  亡稲垣節夫は昭和四〇年五月二二日午後八時五〇分頃本件事故に遭い、脳底頭蓋骨折、脳内出血等の重傷を負い、直ちに多治見市豊岡町田ノ井病院に運ばれ加療したが、同月二七日午前五時遂に同病院において死亡するに至つた。同人は昭和一二年四月二九日生れで本件事故当時満二八才の強健な男子であつたが、本件事故のため洋々たる前途を失い、且つ妻および二人の愛児を残して死亡するに至つた無念さは想像にあまりあり、その精神的肉体的苦痛に対する慰藉料は少くとも金二〇〇万円を下らない。而して被控訴人康子はその妻、同和美同千恵美はいずれもその子として相続により右の三分の一である金六六万六、六〇〇円(一〇〇円未満切捨)宛の賠償請求権を取得した。

(二)  原判決摘示請求原因(五)を次のとおり変更する。

亡節夫は前述のとおり本件事故当時満二八才の強健な男子であり、労働者就労可能平均年数表によると同人の右年数は三五年であるところ、(1)右同人は本件事故による死亡当時その妻被控訴人康子の実父兼松一男の経営する兼松プロパン瓦斯有限会社に勤務し、右会社から一ケ月平均名目賃金三万〇、八〇〇円を得ていた。(2)また亡節夫は右会社に勤務することを条件として被控訴人康子、和美、千恵美と共に右勤務先会社営業所に隣接する右会社所有建物に居住することを認許されていたから、節夫は右建物の一ケ月家賃相当額金四、〇〇〇円を実物給付として給与されていた。(3)また節夫は右勤務並びに居住の関係上右勤務先会社から電気料一ケ月金一、二〇〇円、水道料一ケ月金三〇〇円、燃料代(プロパンガス薪等)一ケ月金二、一〇〇円の各実物給与を受けていた。

右(2)および(3)はいずれも実質的所得というべきであるから、節夫は本件死亡当時一ケ月平均三万八、四〇〇円(右(1)ないし(3)の合計額)を得ていたものであるところ、同人の当時の生活費は一ケ月金一万円であつたからこれを控除すると金二万八、四〇〇円がその平均純月収となる(所得税は将来の昇給等による増収額と相殺して零となるものとする)。従つて同人の右三五年間の純所得は金一、一九二万八、〇〇〇円であるが、これにつき年金的利益の現在価額を年利率五分のホフマン式計算法によつて求めると係数〇三六三六となり、これを右純所得金額に乗ずると金四三三万七、〇〇〇円(一〇〇円未満切捨)となるが、これが右節夫が本件事故により得べかりし利益を失つて被つた損害の現価である。そして被控訴人康子、和美、千恵美は右損害の賠償請求権を各三分の一金一四四万五、六〇〇円宛右節夫の死亡により相続取得した。

(三)  右の次第で、右被控訴人三名の従来の損害請求額(本件においては第一審認容額)被控訴人康子については金二〇三万二、二四〇円、被控訴人和美同千恵美については各金一五三万二、二四〇円(以上のうち節夫の得べかりし利益喪失による損害賠償請求権の相続取得分はそれぞれ金九三万三、八〇〇円)に当審での請求拡張額合計金一一七万八、四〇〇円(前記(二)の金一四四万五、六〇〇円から右金九三万三、八〇〇円を差引いた金五一万一、八〇〇円と前記(一)の金六六万六、六〇〇円の合計額)を加え、被控訴人康子に対し金三二一万〇、六四〇円、被控訴人和美同千恵美に対しそれぞれ金二七一万〇、六四〇円およびこれに対する節夫死亡後である昭和四一年八月三一日以降支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める。

二、控訴人らの後記主張について。

(一)  控訴人らの後記一および二の各主張は争う。

(二)  亡節夫固有の慰藉料も被控訴人らの慰藉料も同じ本件交通事故に基づく精神上の損害であるから同一の訴訟物であるというべく、前者のみ時効により消滅しない。また本件慰藉料請求においては債権の一部につき請求した後申立を拡張して残部の請求をしたものではないというべきであるから、この点についての控訴人らの主張は失当である。

(三)  被控訴人らは亡節夫の逸失利益の算定基礎を名目上の月収三万〇、八〇〇円として計算したが、その後右基礎を実質上の月収三万八、四〇〇円と定めて計算した結果、請求を拡張したのであるが、前者は後者の数量的一部を請求したものではなく、本件逸失利益の全額を請求したのに外ならない。云い換えれば、本件については逸失利益の喪失による損害賠償請求権の数量的一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴を提起したものでなく、右債権の全部を請求して訴を提起した場合にあたるというべきであるから、訴提起による消滅時効中断の効力は右債権の全部(右拡張後の数額)について生じたというべきである。従つてこの点についての控訴人らの時効消滅の抗弁は理由がない。

(四)  被控訴人ら主張の実物給付は、家賃、電気料、水道料、燃料代であつて、経験則上節夫の妻子の生活にも相当必要なのであり、節夫の生活の全部に充当消費されてしまうものではないから、この点に関する控訴人らの主張も大部分失当というべきである。

(控訴人ら代理人の陳述)

一、亡稲垣節夫の過失等について。

(一)  仮に控訴人安藤に若干の過失があつたとしても、亡節夫には次のとおり重大な過失があつたから、ここに過失相殺を主張する。すなわち控訴人安藤運転の車(以下安藤車という)が本件交差点に差しかかつた(従つて節夫も安藤車を発見したと思われる)とき、節夫運転の車(以下被害車という)との距離は約六六メートルあつたのであるが、かりに右の距離が原審認定のとおり二〇メートル位であつたとしても、被害車から見ても本件交差点は左(南)右(北)の見とおしがきかないから、そもそも徐行すべきであつたし(道路交通法第四二条)、被害車が当時制限時速の四〇キロメートルだつたとするとその制動距離は約一六メートルであるから、適切な措置をとれば直進しても追突には至らなかつた筈で、あわててハンドルを右に切つて対向車と衝突し本件事故を惹起した節夫の過失は覆うべくもない。節夫には飲酒あるいは速度制限違反があつた疑いも濃く、しかりとすれば同人の過失はさらに大である。

(二)  原審は被控訴人らに対し慰藉料総額四五〇万円を認めたが、この金額は過大である。被控訴人らは既に受領した自賠保険金二〇〇万七、八〇〇円を慰藉料に充当したといつているが、前述のように過失相殺をなすべきものとすれば、右の保険金は被控訴人らの慰藉料を償つて余りあるといえる。

二、被控訴人康子同和美同千恵美の当審での請求拡張について。

(一)  右被控訴人らは当審においてはじめて亡節夫自身の慰藉料を請求するに至つたが、死亡した被害者自身の慰藉料請求権は高度に個人的人格的色彩の強い一身専属的な権利であり相続されない。また同じく慰藉料といつても、死者自身の慰藉料請求と近親者自身の慰藉料請求とは根拠法条もちがうから別個の訴訟物である。それ故前者の相続性を肯定するとしても、本件ではその請求権は既に時効により消滅している。

(二)  さらにまた、仮に節夫死亡による同人自身の慰藉料請求と近親者自身の慰藉料請求とは同一訴訟物で同一の債権であるとしても、債権の一部につき訴を提起した後、申立を拡張して残部の請求をなしたときはその部分に対する消滅時効の中断は申立拡張(正確には申立書提出)のときから効力を生ずるに過ぎないからやはり時効により消滅している。

(三)  なお右申立の拡張が認められるなら近親者自身の慰藉料と総合してそれぞれ数額を決定すべきである。

(四)  次に、前記被控訴人ら三名の当審での拡張請求にかかる実物給付の点はすべて争う。仮に節夫が被控訴人ら主張の如き実物給付を受けていたとしても、右はいずれも同人の生活に必要なものであり、同人の得べかりし利益とはいえない。現に同人の死亡当時の賃金台帳という甲第一四号証の二にも給与として掲記されておらず、当審における兼松一男の証言によつてもかかる給与は婿に対する特殊の待遇で、贈与とみるべきものであるから、節夫の純収入には影響がない。なおまたかかる請求権(拡張分)は前記二の(二)と同様の理由により既に時効により消滅したものというべきである。

(証拠関係)〔略〕

理由

当裁判所の判断によるも、被控訴人らの本訴請求は原判決が認容した限度において正当であり、その余は理由がないものと考える。そしてその理由は左記のとおり訂正附加するほかは、原判決がその「理由」の部において説示するところと同様であるから、ここに右理由記載を引用する。

一、原判決八枚目裏末行に「毎時五粁位」とあるを「毎時八粁位」と、原判決一〇枚目裏七行目に「三年間」とあるを「一年間」と、同八行目に「請求原因(五)において」とあるを「当審で変更した以前の原判決摘示請求原因(五)(但し同(五)の八行目に「三年間」とあるのは「一年間」の誤記と認める。)において」とそれぞれ訂正し、また原判決一〇枚目裏一行目「同第一四号証の一、二」の次に成立に争のない甲第一五号証を加える。

二、被控訴人康子同和美同千恵美の当審での請求拡張分について。

(一)  本件記録によれば、(1)被控訴人康子同和美同千恵美は昭和四一年八月二〇日受付の訴状(控訴会社に対しては同年八月二六日、控訴人安藤に対しては同月三〇日送達)において、本件事故による節夫の得べかりし利益喪失による損害金三一七万六、四〇〇円を各三分の一(金一〇五万八、八〇〇円)宛相続し、また右被控訴人三名各自の慰藉料として康子につき金一三〇万円(慰藉料一五〇万円から損益相殺分二〇万円を差引いたもの)、和美、千恵美につき各金八〇万円(慰藉料各一〇〇万円から損益相殺分各二〇万円を差引いたもの)、計康子につき金二三五万八、八〇〇円和美、千恵美につき各金一八五万八、八〇〇円(およびこれらに対する訴状送達の翌日から年五分の遅延損害金を附加、以下遅延損害金についての記載は省略)を損害賠償として請求したところ、(2)昭和四二年一〇月二日受付の準備書面で、節夫の逸失利益による損害額を金二八〇万一、六〇〇円と訂正し、従つて右被控訴人ら三名の相続分をその三分の一である各金九三万三、八〇〇円と訂正し、さらに右被控訴人ら各自の慰藉料につき損益相殺分を各金四〇万一、五六〇円と訂正して康子については金二〇三万二、二四〇円、和美、千恵美については各金一五三万二、二四〇円と請求を減縮したこと、そして(3)原審は右減縮したとおりの請求額を認容したところ、右被控訴人ら三名は当審において(4)昭和四三年一二月一二日受付の「請求の趣旨および原因追加申立書」(同日の当審第三回口頭弁論期日に陳述)により節夫自身の慰藉料二〇〇万円を右被控訴人ら三名が各三分の一(六六万六、六〇〇円)宛相続したとしてこれを追加して康子につき金二六九万八、八〇〇円、和美、千恵美につき各金二一九万八、八四〇円と請求を拡張し、(5)さらに昭和四五年一月一四日受付の「請求の趣旨拡張申立書」(同年一月二二日の当審第九回口頭弁論期日に陳述)により節夫の逸失利益による損害額を金四三三万七、〇〇〇円と訂正し、右被控訴人ら三名の相続分をその三分の一である各金一四四万五、六〇〇円と訂正して(2)の金九三万三、八〇〇円との差額分各金五一万一、八〇〇円を追加し、康子については金三二一万〇、六四〇円、和美、千恵美については各金二七一万〇、六四〇円と請求を拡張したものであることが明らかである。

(二)  ところで他人の不法行為によつて死亡した被害者自身の慰藉料請求権が相続の対象となるかどうかについては説が岐れるけれども、当裁判所は肯定説(昭和四二年一一月一日最高裁大法廷判決参照)を正当としてこれに従う。然しながら本件被害者節夫自身の慰藉料請求権と近親者である右被控訴人ら各自の慰藉料請求権とは被害法益を異にし併存しうるものであつて、同一の債権とはいえないし、また節夫の慰藉料請求権と同人の得べかりし利益喪失による損害賠償請求権とは同一の本件事故によつて節夫の受けた損害ではあるけれども、前者は精神上の損害賠償請求権であり、後者は財産上の損害賠償請求権であつて、両者は法律上の性質を異にする別個の訴訟物であり同一の債権とはいい難いから、当初右被控訴人ら固有の慰藉料並びに節夫の得べかりし利益喪失による損害賠償請求の訴を提起した後に相続による節夫自身の慰藉料の請求をした場合には当初の訴提起による消滅時効中断の効力は前者についてのみ生じ後者には及ばないと解するのを相当とする。而して本件記録並びに〔証拠略〕に徴すれば、右被控訴人ら三名(和美、千恵美については親権者である康子)は本件事故により節失が死亡した昭和四〇年五月二七日には損害の発生を知り、その後間もない頃には加害者を知つていたことが窺えるから、節夫の慰藉料につき請求拡張のあつた昭和四三年一二月一二日当時においては既に三年の消滅時効期間が経過しており、従つて右節夫の慰藉料請求拡張部分については消滅時効が完成しているといわなければならない。よつてこの点に関する控訴人らの時効の抗弁は理由があり、被控訴人康子らの右拡張部分の請求は失当としなければならない。

(三)  次に右被控訴人らは、節夫が本件事故による死亡当時一ケ月平均名目賃金三万〇、八〇〇円を得ていたと主張するが、原審認定の一ケ月平均賃金給与額二万八、三四六円以上にこれを認めうる証拠はない。また同被控訴人らは、節夫は生前その勤務先である兼松プロパン瓦斯有限会社から同会社所有の建物に居住することを認許され、これが一ケ月の家賃相当額金四、〇〇〇円を実物給付として給与され、さらに同会社から電気料一ケ月金一、二〇〇円、水道料一ケ月金三〇〇円、燃料代一ケ月金二、一〇〇円の各実物給与を受けていたから、右はいずれも節夫の実質的所得として同人の得べかりし利益に加算さるべきである旨主張する。然しながら〔証拠略〕によれば、右有限会社が設立されたのは本件事故後のことであつて、本件事故発生当時は兼松一男の個人経営であつたことが認められる。そして節夫が生前妻である被控訴人康子の実父である右一男の持家を無償で借受けるほか光熱代、水道料なども同人から給付されて妻子と共に居住していたことは原審認定のとおりであるが、〔証拠略〕によれば、右家賃の無償貸与と光熱代、水道料などの給付は婿である節夫らのため特別な取扱いをしていたに過ぎないことが認められるから、右家賃、光熱代等は実物給与というよりむしろ節夫らの生活費の一部として考えるべきもので、本件事故によつて死亡した節夫の得べかりし利益(純収益)の算定につきこれを算入しうべきものではない。それ故節夫の逸失利益につき当審で拡張した部分の請求は理由なく排斥を免れない。

三、控訴人らの過失相殺等の主張について。

控訴人らは、控訴人安藤運転の車(以下安藤車という)が本件交差点に差しかかつたとき節夫運転の車(以下被害車という)との距離は約六六メートルあつた旨主張するが、当審での〔証拠略〕中右主張に添う部分は原判決挙示の各証拠に照らし措信できないし、他に控訴人安藤が本件交差点にいたりその南端附近で、東方国道左側を西進して来る被害車を認めたときの両車の距離は二〇メートル位であつたとの原審の認定を動かすに足りる証拠はない。而して控訴人らは、右両車の距離が二〇メートル位であつたとしても、被害車から見ても本件交差点は左右(南北)の見とおしがきかないから、そもそも徐行すべきであつたし、被害車が当時制限時速の四〇キロメートルだつたとするとその制動距離は約一六メートルであるから適切な措置をとれば直進しても追突には至らなかつた筈であるのにあわててハンドルを右に切つた点に節夫に重大な過失があつた旨主張する。然しながら成立に争のない甲第五号証の実況見分調書の記載と原審および当審での検証の結果によれば、本件事故現場である交差点は東西に通ずる幅員約七・七メートル(舗装部分六メートル)の国道二四八号線と南北に通ずる有効幅員約四・二メートルの道路とが西側に約七五度の角度をもつて交わる交通整理の行なわれていない交差点であるが、同交差点の東南角すなわち安藤車の進行方向右側、被害車の進行方向左側の南側角には民家があつて相互の見とおしが悪いことが認められるところ、このように道路交通法四二条にいう交通整理の行なわれていない交差点で左右の見とおしのきかないもの」に進入しようとする場合においても、幅員の明らかに広い前記国道を西進していた被害車はこれと交差する幅員の狭い前記道路を北進していた安藤車より優先通行権が認められている(道路交通法三六条)のであるから、被害車を運転していた節夫としては徐行する義務を負わないものと解するのが相当であり、また原審認定のような本件の場合すなわち控訴人安藤が原審認定のような注意義務を怠り一且停車することなく同一速度で左にハンドルを切り、本件交差点の左側を左折する態勢に入つたとき、節夫は既に同交差点東端に接近しつつあつたというような場合には、節夫としては急制動停止措置を講じても安藤車との追突は避けられなかつたこと当審での鑑定人加藤美喜夫の鑑定の結果(第一、二回)並びに証人としての同人の二回目の鑑定書では「02点の車がその位置に停止していたならば衝突は避けられない」とあるが、右停止のことは仮定でスピードのことも考慮している旨の証言によつて認められるから、節夫が追突を避けるため急遽右にハンドルを切つたことをもつて直ちに過失とはいい難く、他に本件事故の発生につき節夫に過失があつたと認める資料はない。それ故控訴人らの過失相殺の主張は採用できない。また本件事故による節夫の死亡によつて被控訴人らが被つた精神的苦痛に対する慰藉料として原判決の認定した金額をもつて相当であると考えられるので、これに反する控訴人らの主張は採用しない。

四、なお以上の認定事実およびこれと牴触しない原判決認定事実は当審において新たに取調べた証拠によつても左右できない旨を附加する。

してみると、右と同一結論に達した原判決は相当であつて、本件控訴および附帯控訴はいずれも理由がないから、控訴人らの本件控訴および被控訴人康子同和美同千恵美の附帯控訴による請求(拡張部分)はいずれもこれを棄却することとし、控訴費用および附帯控訴費用につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 奥村義雄 廣瀬友信 大和勇美)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例